森川滋之の「段取り力」を鍛える
森川滋之の「段取り力」を鍛えるA
■電話応対一つで分かる「段取り力」のレベル
「段取り力」と言っても分かりづらいでしょう。今回は、電話応対を例に、まずは段取り力のある・なしについて考えてみたいと思います。
先日、社員が15名ぐらいのころから親しくさせていただいている会社に用事があって電話しました。中小企業ですが、社員の質は恐ろしく高く、以前は電話応対で不満を感じたことなどはありませんでした。
ところが、今回は残念なことに、既に名乗っているのに「社名とお名前をお聞きしてよろしいでしょうか?」聞き返されました。以前はなかったことです。また、あいにく担当者がいないので伝言をするということになりました。その際に用件の再確認をするという基本はできていたのですが、その内容は「おいおい、そんなこと言ってないよ・・・」というようなものでした。
よほど注意しようと思ったのですが、社長にも考えがあるのかもしれません。とりあえずは用件がきちっと伝わることを祈って電話を切りました。案の定、用件は伝わっていなかったようで、担当社員からメールが来たので、あらためて電話したところ、何も伝わっていなかったようです。
業績好調で、この4年ぐらいで社員数が倍になったのです。しかも、この会社は新卒しか採用していません。先日伺ったときも、はじめてあう社員にあるものを持ってきてもらうように頼んだら、確かめもせずありませんと言う。しかたがないので、よく知っている古参社員に同じことを頼んだら、すぐに手配してくれました。
では、この会社の教育レベルが下がったのでしょうか?
私は、そうは思いません。基本的なマナーに関しては、それなりにきちっと教わっているなと感じています。
では、何がいけないのでしょうか?
私が思うに、これこそが「暗黙知」が伝わっていない状態なのです。
私の電話を受けた新入社員も、電話のマナーはきちっとしていました。
3秒以内に電話を取り、「お世話になっております、××社の○○です」と自分から名乗り、私の社名と名前を確認し、用件を確認しました。こちらが切る前に電話は切らなかったと思います。
こういうことは新入社員のほうが得意で、古参社員になると多少いい加減になることもあります。しかし、新入社員の電話応対のほうが不愉快に感じてしまう。このことは、この会社だけでなく、ある程度社員数を抱える会社では普通のことです。
マナーも順序もきちんとしているのに、不快になるのは段取り力がないからなのです。逆に、多少イレギュラーな古参社員の応対でも快適なのは、彼に段取り力があるからです。
次回は、電話応対を分析することで「段取り力」の正体に迫りたいと思います。
森川滋之の「段取り力」を鍛える@
■このコラムで考えたいこと〜暗黙知を継承する
このコラムでは、仕事の「段取り力」を部下に身につけさせるにはどうしたらいいかという
テーマで書いていきたいと思います。
人事評価においては、コンピテンシー(※)ディクショナリーを整備して能力評価し、
目標管理で業績評価をするというのが、大企業では一般的になってきているようです。
中小企業ではそこまでしなくても、考え方としては能力と業績で評価しようとしていると思います。※業務成果を生み出す特徴的な行動特性
業績については数字で判断できるため評価自体は明確になりますが、分からないのは能力のほう。
コンピテンシーディクショナリーを整備しても、なんとなく漏れがあるように感じている人が多いのではないでしょうか?
たとえば、「見える化」で有名な経営コンサルタント遠藤功氏は、最近のサントリーの業績の良さは、「経営者が「ノリ」をよくするための環境作りを考えている」からだと言います。
しかし、「「ノリ」をよくする環境作り」などという文言が、コンピテンシーディクショナリーに載っていることは、まず考えられません(あれば是非教えてください)。
コンピテーションディクショナリーに載っていなくても、たとえばチームリーダーに「「ノリ」をよくする環境作り」ができるのなら、このリーダーは優秀だとあなたは思わないでしょうか?
では、コンピテーションディクショナリーに「ノリをよくする環境作りができる」という項目を載せればいいのか?
そんな項目が載っていたとしても、参照する側――評価される側――は途方に暮れるだけです。
「ノリを良くしろ」と言われても何をしていいのかさっぱり分からないからです。
では、コンピテーションディクショナリーの他の項目を参照していたらできるのか?答えは否です。
現場の「ノリをよくする」ために、先輩たちは数多くの工夫を重ねてきました。
それでもなかなかできることではない。
このことは、「サントリーが「ノリ」をよくするための環境作りをしているので業績が上がっているから、我が社もまねしよう」と言い出したとしても、なかなかできないことで分かると思います。
このような、先人たちの文書化されない工夫(ゆえに、容易に真似できないコンピテンシー)のことを「暗黙知」と言います。
「暗黙知」のほとんどは、「段取り」として分解することで明確になってきます。
ただ、現場の仕事は多岐にわたります。常にケースバイケースと言っていい。
ディクショナリーやマニュアルに落とし込むと膨大になりすぎて、あまりにも非効率です。
できる部下は、日々の仕事から「段取り」の共通パターンをなんとなくつかんでいます。
しかし、そのような部下は2・8の法則という経験則があるように、少数派です。
他の多数の「今はできていない」部下の「段取り」力を引き上げることが、リーダーにとっては喫緊の課題と言えましょう。
このコラムで書きたい内容自体もマニュアル化は難しいものとなります。
しかし、方法論と事例をお伝えすることで、チーム力強化のヒントを得たいリーダーの参考になれば幸いに思います。
リーダーではないが、高度なメンバーシップでチームに貢献したいという方、さらには近い将来リーダーになることを目指す方にも参考になることでしょう。