栗田猛の経営感覚を磨く
スポーツも商人も「腰を低く」が基本、経営も腰を低くせよ!
「腰を低く!」「腰を落とせ!」は、スポーツではよく言われることである。
たとえば野球、内野の場合はゴロの補給が多いため、目線が低い方が正確に補給し易いから「腰を低く!」という。
ゴルフのパッティングでは、ウェート配分は両足真ん中で、重心は低くする(腰を落とす)ことでブレがなくなる。
相撲は、立ち合いでは腰を低くして当たり、寄り切る時は腰を落とす。相手の打棄り(うっちゃり:そのままでは寄り切られるところを、逆転する技)を防ぐためである。
また「あの人は誰に対しても腰の低い人だ」という場合は腰の位置が低いとか、腰の構えが低いということではなく、「他人に対してへりくだりの気持ちがある」「謙虚である」という意味になる。
だから商売人の行動の原則も「腰を低く」である。
商売人は、自分以外はいつ誰がお客様になるとも限らない。
たとえ気に食わない人であっても、決して顔には出さず、腰をいつも低く挨拶していれば、意外な人がお客様になるかもしれない。
大阪商人はどんなに儲かっていても、いつも謙虚に「あきまへん、ぼちぼちですわ」と応える。
“ビジョナリカンパニー”の著者である、ジェームズ・C.コリンズがその著書の中で、本当に尊敬される経営者の特徴の一つに「謙虚さ」を挙げている。
経営の原則も「腰を低く」である。
「経営の腰」とは損益分岐点(赤字と黒字の分かれ目)である。
損益分岐点(損益分岐点売上高)を求めるには次の公式を使う。
・損益分岐点 = 固定費 ÷{1−(変動費÷売上高)}
・損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 純売上高
損益分岐点以下に、売上が減少すれば、赤字になる。赤字は経営者にとって罪悪である。出血多量は企業の死(倒産)を招く。だから、損益分岐点を“死点”ともいう。
損益分岐点の高い企業は、腰高経営と呼ばれる。
腰の低い企業というのは、損益分岐点が低い企業であり、少々の不況ではビクともしない。
腰高となる要因は、大別して@固定費が高いA変動費が高いB固定費も変動費も高い、の三つに分類できる。
損益分岐点比率が何%にあるか。企業の腰高をチェックする一応の目安は次のとおりである。
S:超安定50%未満、A:安定50〜60%、B:通常60%〜70%、C:要注意70〜80%、D:危険80〜90%、E:倒産90%以上 C・D・Eクラスは腰が高い。
文: 栗田 猛 (くりた たけし)
ヒューマンバリュー・マネジメント代表。 主席人事戦略コンサルタント。
日刊工業新聞ビジネスリーダーズアカデミー講師。
東レ・テキスタイル(株)人事部にて実務経験を積んだ後、コンサルティング業界に入る。
潟^ナベ経営(経営協力部部長代理)、
鞄本総合研究所(人事戦略部長)、朝日アーサーアンダーセン(ディレクター)を経て、1999年に独立。
中小企業から中堅・大手企業・官公庁などの人事コンサルティング・人材教育を行っている。
指導実績は200社を超える。
著書に「経営幹部がおさえておきたい経営用語」(アスカ)、「新日本型人事制度のつくり方」(経営書院)など多数。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://www.kibanken.jp/nikkanbla/expert/category1/category2/entry3.html
お客様との関係に冷たい風が吹いていることに注目せよ!
「すきま風」という言葉は、俳句では冬の季語とされている。いまのように暖房装置が発達していなかったころの日本間は寒く、小さな隙間から容赦なく風が入り込んできた。現代社会では、むしろ人間関係や夢に破れた心のすきまに吹く、寒々しい感覚がそれなのかもしれない。
イギリスの元首相、チャーチルの語録に「資本主義の悪徳は、恩恵の不平等な分配にある。社会主義の美徳は、悲惨の平等な分配にある」という言葉があるが、資本主義の特徴の一つは、生産手段の私有化が認められている点である。
魚を売ろうが、車を売ろうが、レストランをやろうが自由である。厳しい企業間競争の業界から足を洗って、業界と業界のすきまに吹く風にのって、“すきま業界”に参入するのも自由である。
ライフスタイルの変化で、従来ならターゲットにされていなかった部分的な市場(すきま市場)に参入し、採算のとれる市場規模に育て上げる戦略をニッチ(すきま)戦略という。
百貨店が、季節変動の激しい贈答品の配送という部門から撤退してできた、すきまに「宅急便」を始めた大和運輸株式会社(現ヤマト運輸株式会社)は、その代表的な成功例である。
スポーツシューズという特定の分野での製品づくりに専念することによって大きな市場を発掘した、鬼塚商会(現株式会社アシックス)もそうである。
ニッチ戦略成功の鍵は、普通では気づかない変化の芽を早期に見つけて、小回りとスピード対応である。だから、ニッチ業界では、大企業のような組織的取り組みは通用しにくい。市場も小さいから、小さい資本でも事業が開始できる。上場した学習塾も、最初は街の塾だった。
人間関係のすきま、品質のすきま、価格のすきま、情報のすきま、納期のすきまに吹くすきま風を敏感に感じ取る。日中、生活の中でわずかな風を意識することは少ないが、よく観察するとどこからともなくながれている、風の道がある。
お客様との関係の中に冷たい風が吹いている。
そこにいち早く気づき、どこよりも早く温める(改善する)ことができれば、新しい優良顧客を見つけることができるだろう。
文: 栗田 猛 (くりた たけし)
ヒューマンバリュー・マネジメント代表。 主席人事戦略コンサルタント。
日刊工業新聞ビジネスリーダーズアカデミー講師。
東レ・テキスタイル(株)人事部にて実務経験を積んだ後、コンサルティング業界に入る。
潟^ナベ経営(経営協力部部長代理)、
鞄本総合研究所(人事戦略部長)、朝日アーサーアンダーセン(ディレクター)を経て、1999年に独立。
中小企業から中堅・大手企業・官公庁などの人事コンサルティング・人材教育を行っている。
指導実績は200社を超える。
著書に「経営幹部がおさえておきたい経営用語」(アスカ)、「新日本型人事制度のつくり方」(経営書院)など多数。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://www.kibanken.jp/nikkanbla/expert/category1/category2/entry3.html
限られた人員で各人の持てる力を最大化させるためには
人間が持つ能力を、先天的な能力と後天的な能力に分類することは必ずしも簡単ではないかもしれないが、先天的な能力よりも後天的な能力が大部分を占めていると考えられる。
「玉磨かざれば光なし」「学問なき経験は、経験なき学問に勝る」ともいう。
人間の能力は、いくら素質があっても錬磨しなければ立派な人間にはなれない。
世界陸上に出場する選手は、先天的に強靱な筋肉と瞬発力を作り出す素質を持った人たちではあるが、その素質を発揮するための訓練を行わなければ、出場できなかったであろう。そのような栄光を勝ち取れた人は、いつか必ず世界大会に出場するのだという夢を描きながら、試練にへこたれず、逃げず、恐れず、失敗に耐えるという克己心(こっきしん)があったからである。
己(おのれ)に克(か)つ心、の原点とは自分の力はまだまだ不十分だという自覚である。
社員の持てる能力を最大限に発揮させるためには、常に人数は少なめに抑え、危機感を盛り上げ、やらざるを得ない仕組みを作ることである。
また、急ぎの仕事は、暇な人より、忙しい人にやらせることである。忙しい人は、暇がないから、やるべきことに素早く焦点を合わせ、即座に問題点をつかみ、最も効果的なやり方を選択するからである。
ここから言える、持てる力を最大化させるためのポイントは以下の4点である。
(1)常に120%の負荷背負わせる
持てる力で容易にできる仕事では、進歩向上はない。
目標は、努力して達成できるレベルを設定する。
(2)なぜこの仕事が必要かを示す
やった仕事が生かされなければ、やる気は出ない。
やった仕事が、常に生かされ、待たれていれば、何とか頑張って
やり遂げたいと思うものである。
(3)次のやるべき仕事を割り当てる
これが終われば、次に何をやるかが知らされていなければ業務効率は落ちる。
(4)結果の良し悪しを必ず伝える
良かったのか、悪かったのか、どうすればよかったのかを、必ず言ってやらなけ
れば、達成感は味わえない。人は少なく、仕事は多く、
賃金高くが持てる力を最大化させる要諦である。
文: 栗田 猛 (くりた たけし)
ヒューマンバリュー・マネジメント代表。 主席人事戦略コンサルタント。
日刊工業新聞ビジネスリーダーズアカデミー講師。
東レ・テキスタイル(株)人事部にて実務経験を積んだ後、コンサルティング業界に入る。
潟^ナベ経営(経営協力部部長代理)、
鞄本総合研究所(人事戦略部長)、朝日アーサーアンダーセン(ディレクター)を経て、1999年に独立。
中小企業から中堅・大手企業・官公庁などの人事コンサルティング・人材教育を行っている。
指導実績は200社を超える。
著書に「経営幹部がおさえておきたい経営用語」(アスカ)、「新日本型人事制度のつくり方」(経営書院)など多数。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://www.kibanken.jp/nikkanbla/expert/category1/category2/entry3.html
小さいものが大きいものに勝つ「強小戦略」
そんな中、サッカー女子代表“なでしこジャパン”のワールドカップでの優勝は、日本に明るい話題を提供してくれた。
「小よく大を制す」とは、まさに言葉どおり、弱小勢力が、九分九厘優勢と思われる強大勢力に挑み逆転劇で勝利することである。
スポーツではしばしばそのような場面を目の当たりにして、感動するものである。なでしこジャパンの快挙はまさにそうであった。
企業経営においても同じである。大きな会社が赤字を出し、小さな会社が黒字を出している。
大阪にある梱包用品の生産・販売のA社。社員40名、年商30億。最近では新しい分野を手掛け、高周波で猫を撃退する商品を開発、売上高の貢献は1割程度だが、利益で見れば1億円以上を毎年稼ぎ出す。東京にある終戦直後、町の文房具屋として創業した社員30名、年商30億のB社。文具通販大手のエージェント(販売取扱店)事業を軌道に乗せ、経常利益率5%をコンスタントに計上している。
大きいことが必ずしも良いとは限らない。身長190cm、体重90kgなら立派な
体格であるが、その人がフルマラソンを完走できるかは体力の問題であり、完走する体力があっても、季節の変わり目で風を引くのは体質の問題となる。
年商、資本金、従業員数は企業の体格。市場の占有率、成長率、総資本回転率は企業
の体力。一人当たりの生産性や総資本利益率は企業の体質にあたる。
中小企業は体格よりも体力、体力よりも体質づくりに発想を移すことが必要である。
そして、「雑魚は磯辺に、鯨は沖に」が中小企業の生き残る戦略となる。雑魚(ざこ:
小魚)は磯にいれば、大きなものが来ないので生きていける。
鯨のような大きなものは磯に入れば身動きができない。生き物にはそれぞれに、ふさわしい生存領域がある。
生き残る戦略は、勝てる場を見つけ、勝てる体質を作り、小さな市場で何か一つNo1を確保し、小さなNo1を串刺しにする。
サッカーも勝てる場(バイタルエリア)を見つけ、ワンツーパス、楔パス、ドリブルを繋げ、ゴールに結びつける。これが小さな企業の基本的な戦略。今こそ「強小が弱大に勝つ」ときである。
「共生」の時代における真のお客様は誰か?
共生、symbiosis(シンバイオシス)とは、「共に(シン)生きる(バイオシス)」という意味だ。
つまり、企業は、仕入先、得意先、主力銀行、株主などの外部関連先や、
内部の社員を含む利害関係者が、さまざまな関係をもちながら、互いに調和を保って共存するということである。
しかし、実態は、共生と言う名の「強要」や、共生という名の「供応」が多い。
大企業は自社の利益のために中小企業に服従を強要する。中小企業は自社の利益のために大企業の言いなりになる。
「共生」は、企業が近視眼的な営利主義を反省し、時代の変化に合わせた新しい経営の在り方を考える視点である。もちろん、利潤追求は企業が発展していくための必要条件であり、今後も経営の本質であることに変わりはない。
ドラッカーは、企業の社会的責任について「資本コスト以上の利益をあげられない企業は、社会的に無責任である。だが、経済的な成果だけが企業の唯一の責任ではない。従業員、環境、顧客、その他何者に対してであれ、自らがかかわりをもつあらゆるものに対して与えるインパクトについて責任がある。それが社会的責任である」と述べている。
また「企業市民」という考え方がある。人が市民として生活していくうえで市民にふさわしい権利を行使するためには、同時に相応の義務を負わなければならないように、企業も人と同じように地域における市民としての自覚を持つべきであるという考え方である。
この「共生」の考え方を深め、企業と社会との新しい関わり方を示すものに「啓発された自己利益」(Enlighten Self-Interests)という概念がある。長い目で企業の利益を見たとき、たとえ短期的利益を犠牲にすることがあったとしても企業の社会的責任を果たすことが必要であり、それが企業の長期的利益を実現することになるという認識である。
「明日の何時までに荷物を届けてほしい」といえばほしいときに荷物が受け取れる仕組みの裏側には「多頻度小口輸送」による大気汚染が引き起こされている。しかし今、「環境破壊をしてまでのサービスを拒否する」「不安なるものはたとえ値段が安くてもいらない」という「自覚的消費者」が生まれてきている。これからの企業はそういう消費者に受け入れられるような技術、商品、サービスを開発し、提供していく企業でなければならない。
企業にとって、これからの真の顧客は、大気汚染の原因が自ら要望した「多頻度小口輸送」という自己矛盾にあることを自覚した消費者である。
文: 栗田 猛 (くりた たけし)
ヒューマンバリュー・マネジメント代表。 主席人事戦略コンサルタント。
日刊工業新聞ビジネスリーダーズアカデミー講師。
東レ・テキスタイル(株)人事部にて実務経験を積んだ後、コンサルティング業界に入る。
潟^ナベ経営(経営協力部部長代理)、
鞄本総合研究所(人事戦略部長)、朝日アーサーアンダーセン(ディレクター)を経て、1999年に独立。
中小企業から中堅・大手企業・官公庁などの人事コンサルティング・人材教育を行っている。
指導実績は200社を超える。
著書に「経営幹部がおさえておきたい経営用語」(アスカ)、「新日本型人事制度のつくり方」(経営書院)など多数。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://www.kibanken.jp/nikkanbla/expert/category1/category2/entry3.html