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「有事のルール − まとめ/その1」

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「有事のルール ― まとめ/その1」

ルール変更を促すのは、経済活動の変動から生ずる法制度や規範、やがては常識、価値観に至る社会状況全体の変化です。

 

本論の趣旨に沿って云えば「怪我と弁当は自分持ち」が左程異端視されなかった当時の感覚で事業運営を行える土俵は最早無く、たとえば「セクハラ・パワハラ・マタハラ」を常に意識しつつ舵取りをしなければならない、息の抜けない時代の到来が背後に迫っている、とでも表現すれば判り易いでしょうか。
*マタハラ=マタニティハラスメントの略

 

ルール変更は、従って、当然の事として何ら疑問も挟まなかった既存の前提に不具合があった場合、それを修正する過程で生じる軋みをなくす作業ということになります。 

 

所与の前提、お墨付きそのものとして疑わなかった「医師の所見」が、ときに「参考資料」程度のものに過ぎず、証明にすらなり得ないばかりか、書き手自身でさえ確信が持てないケースも少なからずある(いずれも本シリーズの中でご紹介したうつ診断の実情を探った記事)という現実。

 

他方、うつ発症によりほぼ3年近く私傷病休職を続けていた社員が、休職期間満了により解雇された後、発病がパワハラを起因とする業務上疾病であるとして、解雇無効と損害賠償を求め、上告中の東芝うつ病解雇事件(東京高裁23.2.23)@や、翌24年4月27日には、有給全消化後40日間出社拒否状態にあった被害妄想(精神的不調)社員に対する「諭旨退職処分」を無効とする最高裁の判断=日本ヒューレットパッカード事件=A等、今後の事業運営に対する警鐘ともいえる、企業側にとって大変厳しい司法判断が続け様に出されています。

 

[注]
@会社側は一審敗訴、二審では控訴棄却で、実質的に連敗。うつ認容理由の一つとして、半年間の平均法定時間外労働が69時間を超える過重労働であることが挙げられていますが、現行基準の目安は80時間。判決のおよそ半年後に出された「精神障害の労災認定基準」ともかなり異なった判断が下されています。因みに、業務上疾病と認められた場合、休業期間中およびその後30日間の解雇を禁じた労基法第19条に抵触する為、解雇は無効。その結果、この間の私傷病休職はそもそも存在しなかったこととなり、支給済みの傷病手当金は返還、替わって労災保険より休業補償給付が行われています。会社は、原告のうつ発症に至る 過程での安全配慮義務違反を問われ、損害賠償(遅延損害金)、慰謝料の支払いを求られています。  

 

A実際にはその事実がないにも拘らず、凡そ3年間にわたり盗撮や盗聴等を通じて自己の日常生活を仔細に監視している加害者集団があり、彼らが職場の同僚らを介して自分に関する情報の仄めかし等の嫌がらせを行っているという想念から、嫌がらせによって業務に支障が生じている上、当該情報が外部に漏れる危険もあると考え、この被害に係る問題が解決されたと自分で判断できない限り出勤しない旨を予め使用者に伝えた上、有給休暇を全て取得した後、約40日間に及ぶ欠勤を続けた社員に対し、会社は再三出社を促したものの、本人がこれに応じなかった為、正当な理由無き無断欠勤が14日以上に及んだ―として懲戒処分を下 した事案。最高裁は、メンタル不調者に対し、精神科の受診勧奨や休職の適用など、別段の措置を何等なさぬままいきなり諭旨退職とした会社の対応は不適切として、この処分を無効とし、原告の従業員としての地位を認める判決を下しました。因みに、第一審は会社が勝訴しています。

 

これらは、いずれも否応無くゾウとアリの戦いという構図が見えてしまう、業界トップレベルの大企業を舞台とする事件です。

 

確かに法理は法理であり、規模の大小には無関係であるかもしれませんが、誤解を恐れずに云えば、司法がアリ側の天秤に相当重い錘を載せた―という風に見えなくもありません。
又、労働契約の打ち切り・解除を躊躇わない傾向が強いとされる外資系企業の後者については、本邦労働法を遵守せよ−という強いメッセージすら感じてしまうのは、聊かウガチ過ぎというべきなのでしょうか。

 

最高裁の判決は、判例として今後独り歩きすることが予想されます。

 

だからこそ、上告など元々論外、第一審の敗訴すら回避しなければならない資金力不足の企業にとっては、何名もの弁護団を擁し、10年余の歳月と、少なくとも数千万に及ぶ費用を掛けて法廷闘争を繰り広げ得る大企業と同じポジションに立たされるのは、迷惑以外の何者でもなく、極めて憂慮すべき事態と云わなければならないのです。

 

−以下、次号−

 

 

 

「有事のルール ― まとめ/その1」

 

著者/

夏目 雅志  / 三友企業サービスグループ

常に決断を迫られる経営者。
私達は常に経営者の傍らでその背を支え続けます。

 

 

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