実際の経験から学ぶ業績向上に直結する品質管理の方法

ISO/TS16949 取得対策─ ISO/TS16949
要求事項の5つのコアツール@

 ISO/TS16949 で特に注目すべき事項として、5つのコアツールが上げられる。ISO/TS16949 でにわかに活用を要求しているように筆者は感じ取っているが、これらの5つのコアツールは自動車関係の品質保証のためのツールではなく、すべての品質保証に活用できるものと考えている。

 

そこでまず、品質管理の歴史をひもといてみよう。

 

品質管理の歴史

 

1.検査重点主義─1950 年以前


 筆者が大手電気メーカに入社したのは1969 年、最初の所属先は磁気ドラム装置を検査する職場であった。装置を検査するために、ケーブルや切削部品を取り付け、装置の検査を行うのであるが、
電源を入れた瞬間にヒューズが飛んでしまうということがしばしば起きた。
 原因はハーネスの誤配線であった。そこで、急遽使用するケーブルの配線検査を行い、装置に取り付けた。これで電源は入力できたが、次に、装置の筐体に切削部品が取り付かないというトラブルが起きた。今度は寸法不良である。
 1969 年でもこのような状態で、全数検査を実施しないと装置に取り付けることはできなかった。

 

見つかった不良は受入検査部門にクレームを入れ、改善を申し入れた。まさに、図1の経験をしていたのである。

 

2.工程管理重点主義─1950 年以降

 

数年後、筆者は磁気デスク媒体の品質管理を担当していた。QC 工程図・QC 工程表の作成、工程改善を行っていたが、夏場になると不良率が極端に低くなる。

 

そのころの媒体は磁性体を塗装するタイプだったため、塗装工程でも塗装不良が夏場に多発していたのだ。

 

 そこで、1年間塗装室の温湿度と媒体不良率を調査すると、負の相関があることが判明した。塗装室の温湿度をある値以下で管理する対策をとると、冬場と同じ良品率を得ることができた(図2)。

 

3.源流管理

 その後、媒体の工程管理も充実して良品率も向上し、ある大手電気メーカに媒体を販売することになった。当初は順調に出荷していたのだが、ある時、顧客からクレームが入った。
 クレーム内容は、装置に搭載して電気検査を行うと、媒体の欠陥(ピンホール)によりエラーが発生するというものだ。早速調べてみると、確かにピンホールがある個所でエラーが発生する。筆者の検査部では、このピンホールを目視で全数除去することとした。
 しばらくすると、またクレームで呼び出された。今度はピンホールによるエラーである。出荷当初のピンホールの直径は100μm 程度であったが、次第に客先の規格が厳しくなり50μm でもエラーとなり、クレームの対象となったのだ。
 100μm のピンホールを目視で除去するにも1枚3分は必要だったうえ、50μm ともなると目視で除去することは不可能だった。このまま放置すると大問題になると判断し、顧客と取り交わしている納入仕様書を確認すると、「装置検査にてエラーなきこと」と明記されていた。
 製造元としてはピンホールの直径は100μm が限界であったため、納入仕様書には本来、「ピンホールの直径」を規格として顧客と取り交わすことが必要であった。このことから、仕様書を発行する前に仕様書を審査する、設計審査(デザインレビュー)が必要であると強く痛感した。
 この媒体のピンホールの直径仕様問題は、図3のデザインレビューの必要性を明確にした事例と言えよう。

 

4.米国の品質戦略

1987 年、米国のレーガン政権は、品質低下による同国製品の競争力低下を打破すべく日本のデミング賞を研究させ、米国版デミング賞となるマルコム・ボルドリッジ賞を設立した。

 

 ISO9001 の1987 年版の要求事項を確認したところ、2008 年版に比べ難解であり、品質管理的文書表現はなかったため、ISO9001 の適用を疑問視した記憶が筆者にははっきりとある。

 

 それを裏付ける、ISO9001 と他の規格・賞の経歴を図4に記載した。
 筆者は、日本のデミング賞を、企業が推し進める品質マネジメント・システムであると現在も考えている。事実、米国のマルコム・ボルドリッジ賞は日本のデミング賞を研究して構築されているのだ。
一方で、同賞と同じ年に誕生したISO9001:1987 年版は、日本のデミング賞を参考にしていない。

 

 ここで、デミング賞を研究したマルコム・ボルドリッジ賞の「10 の基本コンセプト」を紹介しよう。

 

 @品質は顧客が評価する→顧客満足度評価
 Aトップのリーダシップ→方針管理
 Bたゆまぬ改善→改善状況は見える化
 C従業員の参加→提案制度と報酬制度
 D顧客が欲する迅速な対応→新商品(含む、サービス)開発、クレーム対応、電話一本でいつでも・どこでも対応 
 E設計品質の向上→設計基準の制定・設計審査の実施
 F長期展望・計画策定→商品予測、寿命予測、余裕を持った開発計画、設計評価
 G事実に基づく経営→あらゆる情報収集で品質向上を目指し、利益獲得
 Hパートナーシップ→社内・社外との互恵平等社内:従業員 社外:購入先、顧客、支援企業
 I公共責任と企業市民→企業倫理、安全確保、環境対策、品質情報の公開

 

 さて、読者はマルコム・ボルドリッジ賞の「10の基本コンセプト」どのように感じたであろうか?
同賞を適用した企業は、確実に業績を伸ばすことになると筆者は主張しておく。以上の考え方を図5に示す。

 

 さて、今回はこれらのことを踏まえ、デミング賞の品質マネジメント・システムを視野において、ISO/TS16949 の取得対策を紹介する。

 

2.5つのコアツール

 ここから、ISO/TS16949 要求事項の5つのコアツールについて説明する。

 

 1.先行製品品質計画(APQP)
 (1)要求事項
 要求事項「7.1 製品実現の計画」欄外注記に、「先行製品品質計画書」は
 @エラーの予防および 
 A継続改善を具体的に表現し
 B部門横断的アプローチに基づいている
と明記されている。そこで、これら3項目の要求内容を説明しておく。

 

 @エラーの予防
 製品実現において、エラーとなる要因は各部門に内在しており、この内在しているエラー発生要因を過去の失敗、FMEA・特性要因図・連関図その他のQC 七つ道具で特定する。それを特定した例が図6で、社長を含めすべての部門にエラーが内在していることがうかがえる。

 

 エラー発生防止には、図6を踏まえて製品実現を実施する滴定なタイミングで実施することが重要で、実施漏れを防止するために「チェックシート」化することが望ましい。

 

 A継続改善
 継続的改善を実施するには、確実に問題分析を行い、問題解決内容を確実に確認し、問題解決内容が有効であったか否かを確認する行為が必要となる。
 この行為を行えるのは、品質改善会議・目標管理・内部監査・マネジメントレビューであり、製品実現の処理手順にこれらの実施計画を盛り込み、
実施義務を明確にすることが重要となる。

 

 B部門横断的アプローチ
 図7は品質保証体制を構築し、品質マネジメント・システムを設計するために重要な体系図である。ISO/TS16949 の品質マニュアルを作成する上でもなくてはならないもので、品質マニュアルの良し悪しはこの体系図で決定してしまう。

 

 図7の品質保証体系図(以後QMS 体系図)で明確にわかることは、品質保証を実施して行く上で単独での実施では不可能であるということだ。関係部門がおのおの責任実施事項を遂行して、初め
て製品実現が可能となる。

 

 したがって、各部門の責任分担が明確になっていることを確認するうえで、表1の責任分担確認表を関係部門が協議し、決定する必要がある。

 

 (2)先行製品品質計画(APQP)の書式
@?Bで述べた内容を満足した書式を図8に示す。
 今月はここで誌面が尽きたので、「2.生産部品承認システム(PPAP)」「3.故障モード影響解析」
「4.測定システム解析」および「5.統計的手法」は次号以下で紹介する。

 

筆 者:ながい まもる
TQM Labo コンサル 代表
所在地:〒180-0011 東京都武蔵野市八幡町4-2-3
T E L:0422-53-2979
E-mail: morii007@hb.tp1.jp


昭和43 年、日本電気に入社し、33 年間品質管理・品質保証を担当。
@マネジメントシステムの構築
A統計的手法の活用による品質改善
B香港駐在での海外部品の品質保証体制構築。


「企業の利益を得る品質管理、簡単に品質保証をできる体制作り」をモットーに活動中


 

 

 

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