第9 回 道具5「物流評価シート」(下)

第9 回 道具5「物流評価シート」(下)

海外工場の物流設計評価シート

 海外で工場を建設する際には、これから経費として日々発生する物流費が極力少なくなるように物流設計をする必要がある。そのためこの評価シートは、工場の物流設計を行う際に活用すべき評価シートという位置づけになる。物流設計のポイントは「物流を発生させない」「物流が発生してもそれが極小化されている」の2点と考えられる。
そこで次のような評価項目を入れることが必要になる。2つほど例を挙げておこう。

 

(1)工程間運搬ゼロ部品比率

 この項目では、工程間を運搬しなければならない部品をゼロにするために設定するものである。
工程間は直結することで運搬をなくすことができる。一方で、工程間運搬があることが前提の場合、物流費が延々と発生し続けるので注意が必要である。

 

(2)手押し台車運搬部品比率

 工程間運搬が発生してしまう場合でも、それが極小化されていれば物流費は小さくて済む。そこでフォークリフトや連結牽引台車による「大きな運搬」ではなく、手押し台車で運搬できる程度の「小さな運搬」にとどめたいものである。距離のイメージは10m 以内と考えよう。

 

日々の物流業務評価シート

 工場が無事立ち上がり、オペレーションがスタートした後は、日々発生する物流業務を評価できる項目を設定してチェックしていこう。ここでも2つほど例を挙げてみる。

 

(1)容器レス供給比率

 構内物流の重要機能に「供給作業」がある。供給作業のポイントは、生産ライン作業者に部品だけをタイムリーに渡すことである。つまり輸送や運搬のために容器に入れられている部品は物流側
で容器から取り出し、使う順番でラインサイドに並べて供給することが求められる。これが実現できている部品比率がどれくらいかを示すための指標を設定し、この比率を高めることで生産ライン
作業者の効率と品質向上に寄与していきたい。

 

(2)生産統制実施工程比率

 構内物流は工程で使う部品と完成品を入れる容器、そして生産指示情報を生産ラインに届けることで工場の生産統制を行うことが可能である。部品も容器も、生産計画に見合った必要数だけをタイムリーに生産ラインに届けることがどこまでできているかを把握する。そしてこの比率を高めていくことでつくりすぎのムダを排除し、工場の秩序ある生産に寄与することを目指していこう。

 

物流会社の評価シート

 海外では、構内物流や輸送業務をアウトソースすることが一般的だと考えられる。物流会社がしっかりと物流をマネジメントできない場合には、工場の生産にも悪影響を及ぼす可能性がある。そ
こで物流会社を評価し、是正すべき点は指導していくことが海外支援者のタスクでもある。物流会社評価についても2つほど例を挙げて見ていこう。

 

(1)トラック定時運行比率

 輸送会社にトラック輸送を委託する場合、そのトラックが指定された時刻通りに運行することが重要になる。この時刻が守られない場合、得意先に迷惑をかけることも想定されるため、支援者は
現地スタッフにトラック定時発車・定時到着を評価させるよう指導していただきたい。

 

(2)物流改善提案件数

 物流業務委託は、物流のプロである物流会社にその会社が持つノウハウを提供してもらうという側面がある。つまり単なる業務委託にとどまらず、物流改善につながる提案を物流会社に求めている
ことになるのだ。業務委託費にはこのような提案も含まれているということになるため、常にプロの視点からの改善提案をしてもらい、物流効率化に貢献して欲しいところだ。
 そこで、物流会社が契約時に約束した改善提案を実施してくれているか否かについてチェックしていこう。

 

物流設計評価シートのまとめ

 物流評価シートを作成することの成果として、各スタッフが物流のポイントを認識する機会になるとともに、改善の糸口も見えてくるようになる。
この評価シートはぜひ海外に行かれる前に作成し、工場設計の段階でより良い物流の構築に役立てていただきたい。また日常の運用については定期的に評価することで改善点をあぶり出しよりレベ
ルの高い物流につなげていきたい。

 

筆 者:仙石 恵一 せんごく けいいち 同研究所 所長
日産自動車にて物流IE として新工場・新ラインの物流設計業務、その他輸送や構内物流、荷姿の効率化に携わる。主にIE 的視点を持って物流設計・改善のできる人材を育成すべく、講演・執筆活動を行っている。
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