• ビジネスリノベーションの教科書
  • 法人営業戦略の教科書
  • 中丸
  • 小泉

有事のルール−:「士農工商…」[迫りくる法改正の荒波−18]

日刊工業新聞ビジネスリーダーズアカデミーが 提供する、経営改革に必要な情報満載のサイトです。 各種経営のプロがあなたの疑問にお答えします。 無料の小冊子など、役立つノウハウが満載。

有事のルール−:「士農工商…」   [迫りくる法改正の荒波−18]

英独仏等の欧州先進国と日本の違いは、一体どこにあるのでしょうか?

 

民族上の分類では、アングロサクソンの英国、独仏がゲルマンで日本が大和。
日英が島国なのに対し独仏は大陸。
通貨圏では、日英が円とポンドで独仏がユーロ 。

 

法体系で見ると英国は英米法で、独仏は大陸法、日本 はハイブリッド型−という風に、括り(カテゴリー)を変える毎に様相が異なり、決定打となる答えには中々たどり着けません。

 

その為、時代区分を明治期以降に限定し、違いを浮かび上がらせて見ることにしました。
既に幾度かお伝えして来た通り、国内法の改正にも外圧の影がはっきり映り出し始めた昨今、それをしっかり把握・認識することが、今後の事業運営の道標の一つとして必ず役立つ筈、と考えたからです。

 

注目したのは、「社会構造」です。

 

恐らく、彼我の根源的相違は、英独仏が21世紀の今日においても、歴然たる「階級社会」ある、という点にあると見てほぼ間違いなく、彼の地では どこまで行っても「石屋のせがれは、石屋であり、総理大臣になれる可能性など、限りなくゼロに等しい、と言ってよいかと思われます。(2.26事件後に内閣総理大臣を務め、太平洋戦争終結後巣鴨プリズンに繋がれた挙句、A級戦犯として処刑された唯一の文官 ・広田弘毅は、石屋の倅という出自でした。)

 

特権階級の為の高度技術教育を行い、テクノラート養成の役割を担う大学数が、未だ極めて限られている (20校程度)という構造が、厳然として残っている 国(仏)もあれば、中等教育段階で高等教育コース (ギムナジウム)と職業教育コースを明確に分岐(この時点で社会的身分のリセットはほぼ不可能)、身分的に上位に立てない職業コース出に対しては、例えば旋盤マイスターとしての処遇が受けられる仕組み=リセット不可の代償措置=を制度化し、社会を安定的に機能させて来たそのシステムが、エリートになるには ギムナジウムに、という階級社会であるが故の逆転志向を生み出し、構造変革を迫られている国(独)もあって、それぞれ表面的には多様に見えますが、階級制という地下茎は健在な様です。

 

一方 、列強に伍し得る近代的軍制を敷く際、阻害要因となる封建的身分制度(士農工商 …)を取り除かざるを得ず、それが旧態依然たる封建的階級社会から脱皮する機縁となった結果、格差の少ない横並びの社会構造を獲得し得た−と評される日本でも、その基本構造を揺るがし、格差の固定化=階級社会=を招きかねない動き(改正労働者派遣法を始めとする労働法制の見直し等)が目立ち始めています。
本文では その辺りにフォーカスし、問題点を洗い出して行きたいと思います。

 

<本文>
●2015年8月20日の朝刊各紙とウェブ上に、ユニクロを展開するファストリが「正社員対象に週休3日制」を導入する旨の記事が一斉に掲載されています。
大方が、育児・介護退職による人材流出を防ぎ或いは新たな人材を呼び込む先駆的取り組みであるかの様な紹介の仕方をしていますが、来店客数の多い土日を勤務日、平日を公休とするシフトを組み、従来の一日8時間、週5日の勤務体制を一日10時間にして、週40時間の法定労働時間枠で回そうとすれば、「週休3日」となるのは当然=8*5が10*4(変形労働時間制)に移行しただけの事=であり、労務コストにも変化が生じない以上、そもそも騒ぎ立てるような話ではないのです。(週休3日の先駆者と云うなら、何度でもその斬新な視点を紹介する価値のある、京都の「堀場製作所」でしょう。)

 

●この処、新卒採用者の大量退職やウツ発症者の続出、海外下請け工場での劣悪な労働環境報道等、ブラック企業の代名詞と化していた感の強いファストりにとっては、一発逆転を狙った起死回生の一手だったのかも知れませんが、思惑はともあれ問題なのは、本制度が「限定正社員」向けに限定的に導入されるものであり、経過を見て「本部の正社員」にも適用される可能性がある、というに過ぎない点にあります。
[*限定正社員:場所や期間を特定して雇用契約を結ぶ正社員を表す。例えば勤務先店舗が閉鎖された場合、その時点で契約が終了する「ジョブ型雇用」と呼ばれるものの典型で、内実は解雇や雇止めの法規制も及ばない有期雇用契約社員。

 

会社側に、別途近在の勤務先等への配転や職種転換等による雇用継続措置を講ずる義務はなく、会社の仲間内として終身雇用が約束される従来型の正社員=メンバーシップ型雇用=と比べてみると、外様扱いで処遇も低く、契約期間満了や店舗閉鎖・移転に伴い、お役御免となる「名ばかり正社員」−産業競争力会議等で練られている法案ベース−そのもの。
制度導入に失敗した場合に備え、影響が少なくて済む実験対象、として選ばれた可能性も十分あり得る。]

 

●この様な、正社員にカテゴライズされながら業績に応じて調整が効く雇用形態は、20年も前から財界が唱え希求してきたもの(前号掲載)であり、時の政府はそれを「多様な働き方」というレトリックで、恰もグローバル化時代に相応しい就業形態であるかの様に喧伝しています。
「正社員が多すぎる」、「正社員は恵まれ過ぎだ」等、メッセージを度々発信する一方、少子高齢時代の只中で、育児・介護と就業を両立させるには、融通の利かない従来型就業ではなく、「多様な働き方」を許容する仕組みが必要であり、その受皿こそジョブ型雇用だ、というのが筋書と見て間違いないでしょう。

 

●なお、この「多様な働き方」に、派遣労働が含まれるのは、云うまでもありません。
自分の都合に合わせて勤務調整したい人も多々おり、その要望を満たすには派遣労働が最適ではないか−という理屈の様ですが、このロジックには、客観的な状況と矛盾する点、派遣労働の受け入れ側=派遣先=の問題に全く触れていない、という欺瞞が隠されています

 

官公庁や自治体等、公共機関での派遣受け入れ激増(財政難による外注化と入札の名で罷り通る過剰値引き)がそれです。
そしてその先に待っているのは、一つの事業体において、基幹社員が専門社員を、専門社員が限定正社員を、準社員が派遣社員を蔑視する−という、差別された者が更に自分より立場の弱い者を差別する、差別の連鎖と重層化=「士農工商…」型組織構造(階層分化)への体質変化=です。

 

格差固定化がもたらす階級社会化とは、一般に、互いに言葉も交わさず付き合いもしない関係−を意味します。
職場環境は殺伐とし、精神疾患やトラブルの増大に見舞われても、有効な対策は取り難く、解決は困難を極めるでしょう。

 

●こうした事態の到来を考えると、この先当面は、高い見識を持った「繋ぎ役」の存在が、大変重要になって来るのではないかと思われるのですが、如何なものでしょうか?

 

有事のルール−:「士農工商…」   [迫りくる法改正の荒波−18]

 

著者/

夏目 雅志  / 三友企業サービスグループ

常に決断を迫られる経営者。
私達は常に経営者の傍らでその背を支え続けます。

 

 

 ■ 新着News ■


Top 運営者情報 出張セミナー 無料経営相談 無料レポート その他 お問合せ